戦うか、逃げるか
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カナダの心理学者ハンス・セリエは、様々な外部環境の刺激によって、動物が同じ反応を起こすことに気づいた。
そして1万5000匹もの動物を使って実験を行い、音や光などの物理的な刺激を与えても、薬や臭いなどの化学的な刺激を与えても、同じような反応を起こすことを確認した。
一番わかりやすい反応は、食欲不振と血圧上昇だが、他にも様々な共通反応があることが分かった。
この反応にセリエは「ストレス反応」と名付け、ストレス反応を引き起こす刺激を「ストレッサー」と呼んだ。
ストレス反応は、外界からの刺激は千差万別なのに、同じような反応を示すので「非特異反応」の一種だ。
ストレス反応は、全身に及ぶ場合と局所に出る場合があり、全身に現れる様々な反応をまとめて「汎適応症候群」(はん・てきおう・しょうこうぐん)と呼ぶ。
セリエはこの汎適応症候群を、「警告反応期」「抵抗期」「疲労困憊期(ひはい期)」という3つの段階に分けて説明した。
警告反応期とは、外部からのストレッサーに対して心身が反応を起こしている期間だ。
まず、ストレスによってショック状態になり、身体に力が入らなくなったり、血圧や体温が低下する。
骨折などをすると一瞬で冷や汗が出て体温が下がるが、そんな感じの状態が、数分から1日くらい続くという。
そしてストレスの原因に対して戦うか逃げるかを決定し、ストレッサーとの戦い(あるいは回避)行動が始まるわけだ。
この前半の状態を「ストレス相」と呼び、後半の状態を「抗ストレス相」と呼ぶ。
汎適応症候群(一般的ストレス反応)の3つの段階
ストレスに対する反応をセリエは3つのレベルに分類して説明した。
その三つとは、警告反応期と、抵抗期と、疲労困憊期(ひろうこんぱいき)だ。
まず最初の警告反応期は、「戦うか逃げるか」を選択し、そのための準備に移る期間である。
強いストレッサーに直面すると、人間はまずショック状態に陥る。
身体に力が入らなくなったり、血圧や体温が下がって元気がなくなる。
血液が濃くなり、外からの刺激に反応できなくなる。
失恋のショックで友達の話が全く耳に入らないとか、食欲不振になったりするなんて言うのも、こういう状態で「ショック相」と呼ばれる。
ショック相から戦うか逃げるための準備に移るのが「抗ショック相」と呼ばれる状態で、アドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが分泌されて、血圧や体温が上昇し、血糖値が上がって戦うか逃げる準備が整う。
ここまでが「警告反応期」になる。
ここでストレスに打ち勝てば、何の問題もないが、ストレスにうまく対応できない状態になると、一進一退の膠着状態が続くことになる。
これがストレス反応の第二段階の「抵抗期」と呼ばれる状態だ。
抵抗期はストレスとの闘いが続いている期間で、体力的にもまだ余裕があるのだが、心理的ストレスの場合は、ストレスで分泌されるコルチゾールによって、脳の海馬の神経がジワジワと傷み始めているのである。
なので抵抗期が長引くと極度の疲労感を感じたり、だんだん記憶がおかしくなって体調不良に陥る。
そうして身体が重くなり、身体を引きずるようにして生きる状態になる。
これがストレス反応の第三段階の「疲労困憊期(ひはい期)」で、心労で自殺したり、過労死につながる状態だ。